· 

'20/3/10 「コロナ」を変革の契機に

日経3/10朝刊の柳川範之・東大教授のコラムから。

暗いニュースが続くが、ようやく前向きの話題が掲載された。

こう言う時にこそ、目先の事に囚われず、将来への布石を打つ必要を感じる。

 「新型コロナウイルスの封じ込め対策の結果として、日本でもリモートワークやオンライン学習が本格化し、遠隔診療や遠隔投薬の機運も高まってきた。

ウイルスの広がりは残念な出来事であるが、この変化を日本経済そして我々の生活にできるだけプラスにしていく必要があろう。  

現在起きているデジタルなイノベーション(技術革新)の重要な側面は、ネットワークの活用により、時間と場所にとらわれずに活躍できる、その範囲が格段に広がっていることだ。  

物理的に近くにいなくても、オンラインで画像と音声をつなげば、直接会話や議論ができる。

後でアップされた資料を見ながら講演内容を聴けば、同じ内容を把握できる。

むしろ途中で止めて聴き返したり、考えたりする時間をとることで、より充実した学習を可能にする面もある。

遠隔診療や遠隔投薬についても、感染が広がる懸念がある中では、対面でないことのメリットが生じる。  

感染拡大を防ぐという目的のために、結果的にこのような情報技術の活用という社会実験を行うことになった。(中略)  

今回は、その難しかった社会実験が結果的に行われ、上記のようなメリットや、やればできるという実感をもてる人が出てきたことに大きな意義がある。

今後は、この成果をどれだけ広がりのあるものにしていくか、またどれだけ実りのあるものにしていくかだ。  

リモートワークは単純に在宅勤務を可能にするだけではなく、地方あるいは海外にいても同じような仕事ができることを意味する。

オンライン教育にしても、単に授業内容をネットで聴けるというだけではなく、海外の情報や教育を受けることも技術的には可能になる。

したがって、今までやってきたことを単に代替できるというだけでなく、働き方や学び方に新しい地平を与え得るという点で、広がりの大きなものだ。  

しかし、リモートワークを恒常的に行おうとすると、課題が見えてくるのも事実だろう。

たとえば、リモートで担当すべき業務と出勤して対応する業務とに、改めて区分けし直さないと、スムーズに仕事が回らない事業もある。

あるいは、部門構成や組織構成をリモートワークが行いやすいように変えていく必要もあるかもしれない。  

変革しなければいけないのは民間側だけではない。

制度や規制など公的な側も、変わっていく必要がある。

(中略)  

今までと発想を変える必要があるのは、この例で分かる通り、今までにない技術が急速に進展しているからだ。

通常、法改正はかなり時間をかけて審議して行うことが多いが、それでは技術革新のスピードにまったく追いつかない。

また、産業の垣根を越えた連携や技術開発が進んでいるために、既存の産業構造をベースに組み立てられてきた縦割りの規制や法では、うまく対処できないという課題もある。  

しかし、より重要な点は、技術の細部を制度や規制を整備する側が十分に理解していなかったり、将来変化する可能性があるために見極めることが難しかったりと、規制する側の情報劣位の程度が大きくなりがちなことだ。

特にスピード重視で対処しようとすれば、この点が顕著になる。政府や立法者がすべてを理解した後で、望ましい規制を整備するのは現実的に不可能だろう。  

このような場合、政府や国家は大枠を設定はするものの、より実態を把握し十分な情報を有していて、場合によってはより柔軟に対処できる民間側のガイドラインや自主ルールを活用しながら、全体をうまく機能させる対処が必要になる。

(中略)    

規制のあり方だけでなく、政策の実行プロセスにおいても、デジタル化を活用していかにきちんとデータを集め、それをベースに政策を実行するかも重要だ。

大きなデジタル・トランスフォーメーションが政府においても、いや政府だからこそ必要になっている。

<ポイント>

○リモートワーク推進を社会実験と捉えよ

○デジタル技術を活用した変革は官も必須

○制度や規制改革も技術革新と同じ速度で」